”新しいブランドでEC市場に挑戦する”ーーと言葉にするのは簡単ですが、実際には険しい道のりが待っています。
韓国で誕生し、日本参入からわずか14か月で年商30億円を達成した“セルフジェルネイル”「ohora」は、どのようにしてゼロから“選ばれるブランド”へと成長したのか。本レポートでは、株式会社DGビジネステクノロジーの古屋と、株式会社グルガジャパンのオー・ジュンヨン氏によるセッションをもとに、急成長の裏側にある、綿密に練られた設計と仕組みについて、課題を交えながらその設計と仕組みを紐解きます。
※本記事は、2025年7月29日(火)に開催された「Digital Commerce Frontier 2025」(主催:株式会社インプレス ネットショップ担当者フォーラム)の登壇レポートです。
<左>株式会社DGビジネステクノロジー プロフェッショナルソリューション本部
コマースコンサルティング部 部長 古屋 仁俊
2014年にデジタルガレージに入社、化粧品・人材・教育・ブライダルなど幅広い業界に対するWebコンサルティングに従事。2021年からブランド運営に本格参画し、事業計画策定から、EC・モール立ち上げ、フルフィルメント業務等ブランド運営に関わるあらゆる領域を経験。運営をリードした楽天ショップではショップ・オブ・ザ・イヤーも獲得。現在もブランド運営支援・コンサルティングを統括。
<右>株式会社グルガジャパン 取締役 オー・ジュンヨン
EY、アクセンチュア・ストラテジー、マッキンゼー・アンド・カンパニーで戦略コンサルタントとして主に消費財・小売業界のクライアントの経営課題を解決するプロジェクトに従事。台湾発のティーカフェ「Gong cha」を運営する米国の投資ファンドを経て、米コロンビアビジネススクールでMBA(経営学修士)を取得後、GLLUGA INC.に入社し、韓国発ネイルブランド「ohora」の日本カントリーマネージャーを務める。
古屋
新しいブランドを短期間でECで売れるようにするのは、やはり難易度が高いのでしょうか。本日はこのテーマをもとに、弊社がご支援したネイルブランド『ohora』について、グルガジャパンのオー取締役と共にお話しします。
DGグループでは、ECをはじめるうえで必要な事業計画の作成、チャネルの開拓や運営、注文・物流の管理、プロモーション、CRM、LTVの向上と、商品そのものの製造以外はトータルでご支援しております 。
オー氏
2019年にローンチした韓国No.1のセミキュアジェルネイルブランド「ohora」。
その最大の特徴は“サロン品質×自宅で簡単”をコンセプトに独自開発した「セミキュアジェル」を採用している点にあります。シール型でありながらぷっくりとした厚みやツヤを再現でき、400種類以上のデザイン性の高いSKU(商品種類)を揃え、韓国国内では圧倒的なシェアを獲得。
“サロンでもない・セルフネイルでもない”第3の選択肢を提示し、従来の市場にはなかった“半プロ需要”を掘り起こしました。
1回約1万円のネイルサロンに比べ、ohoraは1箱1800円程度であり、自宅でできるためネイルサロンに通う必要もありません。
また独自開発した素材によりサロンのような仕上がりが実現できるといいます。
2020年からスタートした日本市場への参入ミッションは「日本No.1ジェルネイルブランドを確立する」こと。
日本展開のパートナーにDGグループを選んだ理由をオー氏は「一番スピード感をもって設計からオペレーションまで任せられたこと、そしてCRM活用の実績があったこと」と話しました。開発スピード・CRM・分析〜改善まで、すべてを“売上起点”で設計。事業スケールの最大化を狙い、以下のようなステップを重視した、とふたりは話します。
①オンライン販路のスピード立ち上げと売上基盤の整備
まずは楽天市場・Amazonを主戦場とし、販売チャネルを迅速に確立
②ブランド体験を重視し新規シェアを獲得
商品を“体験”してもらうことを何より重視し、ユーザー接点を丁寧に設計
③認知獲得に向けた統合的なプロモーション戦略
デジタル中心だった韓国手法を日本市場向けにリデザインし、オンライン・オフラインを横断した統合的施策を展開
初年度は特にシェアを取ることに注力したため、オンラインの販路をスピード感をもって展開したと振り返りました。
DGグループがさまざまなブランドのECの支援をする中で、よくご相談いただく落とし穴を例に、ohoraではどのような設計をしていったのか、古屋よりポイントを解説しました。
フェーズ | よくある落とし穴 | ohoraの実践策 |
開発 | 自社ECの立ち上げに時間がかかり、販売機会を逸する |
Shopifyを使い3ヶ月という短期間でローンチ。 後続の施策に接続しやすく。 |
モール活用 | モール単体で売上を作り、後続施策につながらない |
モールはテストとUGC生成の場。 自社ECが主力販売チャネルで売上の過半数を占める。 |
集客 | 広告効果が低く、初期投資が無駄になりやすい |
TVCM・SNS・IPコラボ等、多層的なプロモーションで仕組み化。 統合的なマーケティング戦略を展開。 |
CRM | 顧客が貯まらず、初回購入で終わってしまう |
LINE連携で新規ID取得を促進。 LTVを意識した育成施策で購入へ導き、2回目の購入率は約40%。 |
分析 | 感覚と属人性に頼り、失敗を繰り返す |
ダッシュボードを整備し、週次でデータレビュー・市場調査を徹底。 仮説検証の積み重ねで意思決定。 |
LTV/育成 | 初回購入後の継続率が低い |
SNSの接点×パーソナルカラー診断などでレコメンド。 新しいネイルデザインを発見、再購につなげる。 |
物流 | 注文データや倉庫との連携が複雑で、出荷遅延や対応コストが増大 | 韓国から国内配送に切り替え、注文・在庫システムと倉庫・CSを連携し自動化。クレームを1/10に減少。 |
「ECの立ち上げ期から売上拡大につなげるためには、バックヤードの自動化によるコスト削減がカギとなり、ohoraでは削減できたコストを次の新規投資に回していくことができた」とオー氏は話しました。
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ブランドの急成長は「テスト→拡大→ナーチャリング」という連続したプロセスを計画的かつ段階的に積み重ねた結果です。
ohoraが日本市場の参入から14か月で年商30億円達成するまでを3つの戦略フェーズに分け、どのような施策を行い、そして成果につながったのかを話しました。
モールはテストマーケの場として活用し、購入したユーザによるUGC創出が次の新規獲得へとつながる良いスパイラルを生み出す結果となりました。
古屋
ハンドだけではなくフットネイルもニーズが高まる夏の需要を逃さないため、6月に自社ECをオープン。
KPIのひとつに、「LINEのお友達登録」を置き、検討層のストックがのちのちの売上をつくっていきました。LINEの活用は次のフェーズへと続きます。
古屋
夏の需要期が終わり、新規獲得が難しい時期に。フェーズ2で獲得したLINEのナーチャリングを強化。
LINE経由の新規ユーザー比率は35%に達し、再訪・リピートのエンジンとなりました。
オー氏
ポップアップショップの出展というオフラインの場で、実際に使ってもらうというタッチポイントを新たに作れたのはよかったですね。お客様の生の声が聞けて、その後の商品開発にもつなげていくことができました。
オンライン、オフライン相互の流れが作れたのも出店のメリットだと思います。
古屋
出店してエリアでの検索経由の流入が160%増えるなど、ECという場で戦いつつもリアルの場の大切さを私も感じました。
体験ブースでは実際に体験いただいた方の8割は購入していただけるというプロダクトの強さも改めて実感しました。
古屋
ohoraのリピート率向上を支えたのは、「セグメント×シナリオ×パーソナライズ」を推し進めたCRM戦略でした。
古屋
どんなコンテンツ、どんなタイミングだとネイルにときめくのか、社内で議論を重ね施策を積み重ねていきました。ここはなかなか正解がわからないので、継続的なPDCAが大切だと感じます。
ohoraは14か月以降の成長ドライバーとして話題性を意識したIPコラボ(ディズニー社/ロッテ社ガーナ)も仕込んでいました。
IPコラボレーションにより新しい出会いの創出につながったと二人は語ります。
古屋
新規のブランドがECの立ち上げに成功した、というよりは持続的な成長ができる仕組みをつくれたことが非常に良かったと考えています。事業の未来を左右するのは、最初から戦略的に仕組みをきちんと構築しておくことだと強く感じています。
オー氏
韓国のブランドでも、1~2年はバズって伸びても9割くらい撤退してしまうというのを目にしています。
ohoraはDGとパートナーを組むことで事業の構造化ができたのが強みだと思います。オペレーションの改善やさまざまな効率化などで、収益性を上げて次に繋げられているのが良かったポイントだと思っています。
単なる“立ち上げの成功”にとどまらず、ohoraが徹底したのは「持続的な成長を実現する仕組み化」。
ブランドの世界観や体験価値、ユーザーとのコミュニケーションまでをECでリアルタイムにデザインし続けたことが“選ばれるブランド”として根付いたポイントだとまとめました。
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・プレスリリース
デジタルガレージ、韓国セルフジェルネイルブランド「ohora」支援を起点に、TikTok Shop活用支援サービスを提供開始