30秒でわかるこの記事の要約
・EC事業者が対応すべきことは大きく2つ:
①商品や企業の情報を、AIが読み、正しく理解できる状態にすること。
②AIエージェントと取引できるよう、APIをはじめとする取引の仕組みを開くこと。・「AIに理解される」は今すぐ必要で、すべての土台:
AIが探して人が買う段階は、日本でもすでに到来済み。この対応は、この先どの段階に進んでも前提として残り続ける。「AIと取引できる」はその上に、カート・注文、決済、委任の検証と段階的に積み上がる。・「AIと取引できる」は、自社のAIなら今すぐ進められる:
ChatGPTやGeminiなど外部のAIとの取引は、日本では2027年ごろからの見込み。自社サイト内のAIであれば、認証も決済も自社の中で閉じるため、今すぐ着手できる。
AIエージェントが消費者に代わって商品を探し、比べ、買うようになる。エージェンティックコマース(※1)と呼ばれるこの変化に向けて、EC事業者はどのような対応をすればよいのでしょうか。
本記事では、その答えを「AIに理解される」「AIと取引できる」という2つの対応に整理し、それぞれが具体的に何を指すのか、そしてどの順番で着手すべきかを解説します。記事の最後には、自社の現在地を簡単に確かめられるセルフチェックを用意しましたのでご確認ください。
なお、本記事では、読者であるEC事業者(自社ECを運営するメーカー・ブランドを含む)のことを「自社」と表記します。
(前回の記事:エージェンティックコマースは、いつ来るのか——4つのレベルに時間軸を重ねて考える)
1. EC事業者が対応すべきことは2つ——「AIに理解される」が土台、「AIと取引できる」がその上に積み上がる
連載の第2回では、エージェンティックコマースの進み方を、購買をAIにどこまで任せるかで4つのレベルに整理しました。第3回では、日本ではレベル1がすでに到来しており、レベル2は2027年ごろから、レベル3は2028年前後から段階的に実用フェーズへ入っていくという見立てを示しました。
本記事では、このレベルを物差しとして使いながら、EC事業者が対応すべきことを整理します。当面見据えるべき段階をレベル3とすると、そこに向けた対応は大きく2つに集約されます。
② AIと取引できる——AIエージェントがカートを作り、注文し、決済まで進められるよう、APIをはじめとする取引の仕組みを開くこと。
2つの関係を示したのが以下の図です。「①AIに理解される」は、日本でもすでに到来しているレベル1の段階から必要になる対応です。そして、レベル2・3・4へ進んでも、前提として残り続けます。AIに正しく読まれていなければ、取引の仕組みがあっても候補に選ばれないからです。つまり「AIに理解される」ことは、どの段階を目指す場合にも共通する土台です。
「②AIと取引できる」は、レベル2以降のために必要になる対応です。レベル2ではAIがカートを作り、対話の中で決済まで進めます。レベル3では、人がその都度承認しなくても、委任された範囲でAIが購入します。段階が上がるにつれて、その中身も「カート・注文」「決済」「委任の検証」と積み上がっていきます。

ここからは、「AIに理解される」「AIと取引できる」がそれぞれ具体的に何を指すのかを見ていきます。
2. ①AIに理解される——商品と企業の情報を「見える・読める・選ばれる」状態に
AIに理解されるための対応は、3つの段階に分けて考えるとわかりやすくなります。AIからサイトの中身が「見える」こと、商品情報を正確に「読める」こと、そして比較の中で「選ばれる」だけの情報があることです。
見える——AIから、サイトの中身が見えているか
最初に確かめたいのは、AIからそもそもサイトの中身が見えているかどうかです。AIを提供する各社は、回答の材料を集めるためにクローラー(※2)と呼ばれるプログラムでWebを巡回しています。サイトの設定でこれを拒否していたり、ボット対策のアクセス制限でAIまで弾いていたりすると、AIの回答に自社の商品が出てくることはありません。また、価格や在庫をJavaScript(※3)で後から表示する作りの場合、AIによってはページを開いても中身を読み取れないことがあります。自社では対応しているつもりでも、設定一つで候補にすら入らない状態になっていることがあるため、まずここを点検する必要があります。
読める——商品情報を、機械が正確に読み取れる形に
次に、AIが商品情報を取り違えずに読み取れる状態にします。人は画面のデザインや文脈から「これが価格だ」と判断できますが、AIにとっては、どこに何が書かれているかが決まった形式で示されているほうが確実です。そのための手段が、構造化データ(※4)と商品フィード(※5)です。商品名、価格、在庫、JANコードや型番といった識別子、サイズ・色・素材などの属性を、機械が読める形で提供します。
あわせて重要なのが、情報の正確さと鮮度です。AIが示した価格や在庫が実際と違えば、消費者の信頼を損ねるだけでなく、AIからも信頼できない情報源と扱われかねません。価格や在庫の変更が、どれだけ早くサイトやフィードに反映されるかも問われます。
選ばれる——比較の中で、推薦する理由をAIが作れるように
外部のAIは、複数の店舗の商品を横断して比べたうえで候補を示します。そこで選ばれるには、AIが「なぜこの商品を勧めるのか」を説明できるだけの材料が必要です。例えば、「誰の、どんな場面に向くか」「ほかの商品と比べて何が違うか」といった意味情報です。形式的な説明文をそのまま載せているだけでは、他社との違いが伝わりにくくなります。
判断材料が1ページで揃っていることも大切です。配送日数、送料、返品条件、保証が商品ページで確かめられなければ、AIはそれらが明示されている他社を優先するかもしれません。さらに、会社概要や問い合わせ先、返品・配送のポリシーといった企業の情報も、AIが「安心して勧められる店舗か」を判断する材料になります。
この「選ばれる」の重みは、AIに任せる範囲が広がるほど増していきます。人がAIの提示を見て最終的に決めるうちは、ブランドの表現や商品の見せ方も選ばれる理由になります。しかしレベル3に入り、AIが条件に照らして自ら選ぶようになると、効いてくるのは価格・在庫・納期・返品条件・スペックといった構造化された事実です。いま「AIに理解される」状態を整えておくことは、そのままレベル3への備えにもなります。
3. ②AIと取引できる——APIを開き、「カート・注文」「決済」「委任の検証」と段階的に
「AIと取引できる」とは、AIエージェントがECサイトと直接やりとりして、取引を進められるようにすることです。その中心になるのがAPI(※6)、つまりシステム同士がデータや処理をやりとりするための窓口を外に開くことです。ただし、窓口を開くだけでは十分ではありません。相手のAIが正規のものか、本人がその取引を許可しているかを確かめる仕組みとセットで考える必要があります。段階ごとに見ていきます。
カート・注文(レベル2から)——AIがカートを作れるようにする
AIが商品を検索し、在庫を確かめ、カートを作れるAPIを用意します。この段階では、決済は人がECサイトに移って行うため、AIが作ったカートをECサイトへ引き渡す仕組みも必要になります。あわせて、どのAIからのアクセスかを見分け、許可した相手にだけ機能を開く仕組みが求められます。
決済(レベル2から)——対話の中で決済まで完了できるようにする
ECサイトに移ることなく、AIとの対話の中で決済まで終えられる状態です。カートまでと決済までを分けて考えるのは、必要な実装が大きく変わるためです。カートまでは商品とカートの窓口を開くことが中心ですが、決済では、決済情報を安全に受け渡す仕組みや、決済代行会社の対応、AIを経由した注文を不正と誤判定しないための調整など、決済の仕組みそのものに手を入れることになります。
委任の検証(レベル3から)——人の都度承認がなくても、安全に取引できるようにする
レベル3では、人がその場にいないまま取引が行われます。そのため、「本人が本当にこの範囲を許可したのか」を確かめる仕組みが欠かせません。第3回で触れた委任の証明の仕様がその役割を担い、取引の経緯を後から確かめられる監査ログや、取消・返品への対応も必要になります。ここは事業者の実装だけでなく、業界の標準化や責任分界の制度とも歩調を合わせて進む領域です。
なお、「AIと取引できる」ための対応は、システムだけの話ではありません。AIから注文が入るようになれば、在庫の同期、注文や返品の処理、問い合わせ対応といった日々の運用にも影響します。そしてこの対応は、「AIに理解される」状態の上にしか成り立ちません。AIに正しく読まれていない商品は、取引の窓口を開いても選ばれないからです。
4. 相手にするAIは2種類——自社のAIなら、「AIと取引できる」状態も今すぐつくれる
ここまでの2つの対応を、いつ進められるのか。それを左右するのが、相手にするAIの種類です。大きく分けると、外部のAIと自社のAIがあります。
外部のAIは、ChatGPTやGeminiのように、消費者が普段使っているAIアシスタントやAI検索です。自社の商品を他社の商品と横断して比べたうえで、候補を示します。自社のAIは、EC事業者が自らのサイトやアプリで提供するAIです。自社サイト内に置く接客AIなどがこれにあたり、提案の範囲は自社の品揃えに限定されます。
以下の図は、2つの対応を相手にするAIごとに分け、着手できる時期を示したものです。

「①AIに理解される」は、どちらのAIに対しても今すぐ進められます。外部のAIに対しては、クローラーの受け入れや構造化データ・商品フィードの整備を、プロトコルや制度を待たずに進められます。自社のAIに対しても、商品データを取り出せる仕組みや商品マスタの一元化、意味情報の充実が、そのまま回答の精度につながります。
「②AIと取引できる」は、相手によって時期が分かれます。外部のAIと取引するには、外部のAIとECサイトが共通の約束事でつながる必要があります。GoogleのUCP(※7)のようなプロトコルがその役割を担いますが、日本での提供や決済各社の対応を待つ部分が残ります。そのため、カート・注文と決済は2027年ごろから、委任の検証は2028年ごろからというのが私たちの見立てです(この前提については、記事の最後で改めて触れます)。
一方、自社のAIであれば、認証も決済も自社の中で閉じるため、外部の提供を待つ必要がありません。MCP(※8)などの仕組みを使って自社のAIが商品を探し、カートを作れるようにすれば、ECサイトへの引き渡しも、対話の中での決済も今すぐ実現できます。既存の決済基盤のままで実現できる場合もあります。つまり、市場のレベル2が日本に広がる前でも、自社のAIであればレベル2に相当する購買体験を先に提供できるということです。
自社のAIには、もう一つの意味があります。外部のAIを経由した購買が増えるほど、消費者がサイトを訪れる機会は減り、閲覧や検索の履歴から顧客を理解する手がかりも、サイト内の接客で差をつける場も少なくなっていきます。第3回で触れたゼロクリック化(※9)は、購買レベルの進行を待たずにすでに進んでいます。外部のAIに正しく読まれる状態を整えることと、自社のAIでサイト内の体験を深め、顧客との接点とデータを自社に残すこと。この2つを並行して進めることが、変化への備えになります。
5. 着手の順番——AIに理解される状態を固め、取引は自社のAIで先行させる
ここまでを踏まえると、着手の順番は次のように整理できます。
順番が大事なのは、上に積むものが下のものを前提にしているからです。AIに正しく読まれていない状態で取引の窓口を開いても、候補に選ばれません。自社のAIを導入しても、元になる商品データが整っていなければ、的外れな提案や誤った案内につながります。下の段で止まったまま上の段に投資しても、成果にはつながりにくいのです。
6. まとめ——自社の現在地を確かめることから
本記事では、エージェンティックコマースに向けてEC事業者が対応すべきことを、2つに整理しました。①AIに理解されることは、すでに必要で、どの段階にも共通する土台です。②AIと取引できることは、その上にカート・注文、決済、委任の検証と積み上がり、自社のAIであれば今すぐ着手できます。
最初の一歩は、自社がいまどこにいるのかを確かめることです。以下に、自社で簡単に確かめられる10の問いを用意しました。
AIに聞いてみる
☑️ ChatGPTやGeminiに「◯◯(自社が扱う商品ジャンル)のおすすめは?」と聞いて、自社が候補に出てくるか
☑️ ChatGPTやGeminiに自社の商品名について聞いたとき、価格や特徴が正しく返ってくるか
自社サイトを見てみる
☑️ サイトの設定(robots.txtなど)で、ChatGPTのクローラーやGemini向けの指定(Google-Extended)など、
AIによる読み取りを拒否していないか
☑️ JavaScriptをオフにしても、商品ページの価格と在庫が見えるか
☑️ 「誰の、どんな場面に向くか」が文章で書かれているか
☑️ 配送日数・送料・返品条件・保証が、商品ページ1枚でわかるか
社内で確かめる
☑️ 価格や在庫の変更が、すぐにサイトに反映されるか
☑️ 商品データを、社内外のシステムから直接呼び出せる仕組み(APIなど)があるか
☑️ AI検索を経由した流入を、ほかの流入と分けて計測できているか
☑️ AIへの対応について誰が何を担当するかが決まっているか
「いいえ」や「わからない」があれば、見直す余地があります。ただし、ここに挙げたのは外から確かめられる一部にすぎません。実際には、同じ事業者でも外部のAIと自社のAIとで現在地が異なることが多く、データ基盤や運用体制まで含めて見ていく必要があります。
なお、2026年9月には、MetaのMuse、OpenAIのdotsといったパーソナルAIエージェント(※10)が、大手プラットフォーマーから相次いで公開されました。本記事の内容は、UCPなどのプロトコルに準拠することを前提にしていましたが、パーソナルAIエージェントはブラウザを直接操作するため、「②AIと取引できる」については前提が変わり、時間軸も変わる可能性があります。次回はこの点を取り上げ、内容をアップデートしていきます。
最後に Digital Garageからのご案内
デジタルガレージとDGBT(DGビジネステクノロジー)は2026年8月、エージェンティックコマース時代の事業者対応を支援するサービス群「DG Agentic One™」の提供を開始しました。商品データのAI最適化(DataFeed)、AI検索で自社商品が推奨されるための支援(GEO)、AIエージェントとECサイトをつなぐゲートウェイ(MCP)、AIエージェント向けフロントを備えたEC基盤(Commerce)、そして決済(Payment、開発中)という5つのプロダクトで、本記事で触れた領域を一貫して支援します。
「セルフチェックで気になる項目があった」「自社の現在地を把握したうえで、着手の順番を決めたい」といったご相談から承っています。お気軽にお問い合わせください(お問い合わせはこちら)。エージェンティックコマース領域の最新動向は、今後も継続的に発信していきます。
用語説明
※1 エージェンティックコマース:人間(ユーザー)から委任を受けたAIエージェントが、商品を発見・比較し、ユーザーに代わって注文・決済までを完結させる商取引の総称。
※2 クローラー:Web上のページを自動で巡回し、情報を収集するプログラム。AIを提供する各社も独自のクローラーを運用しており、サイト側はrobots.txtなどで受け入れの可否を指定できる。
※3 JavaScript:Webページに動きや機能を加えるためのプログラミング言語。価格や在庫をJavaScriptで後から表示する作りの場合、AIのクローラーによっては内容を読み取れないことがある。
※4 構造化データ:Webページの内容(商品名・価格・在庫など)を、AIや検索エンジンが機械的に読み取れるよう、決まった形式で記述したデータ。schema.orgの語彙を用いたJSON-LD形式が一般的。
※5 商品フィード:商品名・価格・在庫・画像などの商品情報を一覧にまとめ、検索エンジンやAIプラットフォームなど外部のサービスに提供するためのデータファイル。
※6 API(Application Programming Interface):システム同士がデータや機能をやりとりするための窓口。人が画面を操作しなくても、別のシステムやAIから商品情報の取得や注文などの処理を直接呼び出せる。
※7 UCP(Universal Commerce Protocol):GoogleがShopify、Etsy、Wayfair、Target、Walmartと共同で開発したオープン標準規格(2026年1月発表)。商品の発見・比較から購入、注文管理までコマースの工程を標準化するもので、決済のプロトコルであるAP2と互換性があり、API・A2A・MCPを通じて接続できる。
※8 MCP(Model Context Protocol):AIと外部のデータやツールをつなぐための標準規格。Anthropicが2024年11月に公開した。AIがECサイトの商品検索やカート操作などの機能を呼び出す際の接続方法として使われる。
※9 ゼロクリック:AI検索や検索結果ページ上の要約で答えが得られ、ユーザーが検索結果のリンクをクリックせずに終わる状態。サイトへの流入が減る一因となる。
※10 パーソナルAIエージェント:利用者一人ひとりの代理として、メールの送信や予約、買い物などのタスクを継続的にこなすAIエージェント。専用の環境で自らブラウザを操作し、人と同じようにWebサイトを使って作業するものが登場している。
注記:本記事は公開情報とDGBTによる整理に基づいて執筆しており、記載した時期の見立てはDGBTによるものです。パーソナルAIエージェントの動向などにより、見立ては今後更新する可能性があります。仕様・制度は流動的なため、実務では各プロトコルの正本および最新の一次情報を必ずご確認ください。
DGビジネステクノロジーは、エージェンティックコマース時代を見据え、EC・決済・AI活用・データ活用まで
一貫した支援を提供しています。コマース領域のDXやAI活用をご検討の方は、お気軽にご相談・お問い合わせください
■執筆者
|
馬場 亮充 株式会社デジタルガレージ マーケティングトランスフォーメーション本部 事業開発部
人材業界にて法人営業、人事、事業開発を経験した後、2015年にデジタルガレージ入社。SNS広告・動画広告黎明期に広告運用コンサルタントとして従事。その後、グループ会社のカカクコム社と協働のアドテクプロダクト開発や複数の新規事業開発を経て、現在はエージェンティックコマース領域に注力。マーケティング、ECシステム、決済などデジタルガレージグループが有する幅広いアセットを活かした事業開発・プロダクト開発を推進。 |