【開催レポート】Commerce × AI 実践セミナー

― 検索からエージェントまで、コマースに広がるAI活用の現在地

【開催レポート】Commerce × AI 実践セミナー ― 検索からエージェントまで、コマースに広がるAI活用の現在地

AIはこの一年で飛躍的に進化しました。
検索体験やコンテンツ制作の在り方、そして企業の業務構造そのものにも変化の兆しが見え始めています。

こうした変化を背景に、2026年2月10日、デジタルガレージとDGビジネステクノロジーは「Commerce × AI 実践セミナー」を開催しました。本セミナーでは、「検索×AI」「マーケティング×AI」「AIエージェント」という3つのテーマを通じて、AI活用の最新動向と、現場で取り組むうえでのポイントが共有されました。

当日は、リテール・メーカー企業など、コマース領域に関わる担当者が参加し、セッション後のネットワーキングでは、参加者同士の意見交換や交流が随所で見られました。

検索×AI

AIが変える検索体験とブランドの競争軸(Ahrefs)

最初のセッションでは、Ahrefs Pte. Ltd. 日本マーケティング統括の河原田隆徳氏が登壇。
生成AIの普及が検索体験に与える影響について解説しました。

AIが変える検索体験とブランドの競争軸(Ahrefs)

検索結果の風景は、確実に変わり始めています。
検索結果にはAIによる要約や回答が表示され、ユーザーはリンクを開く前に“答え”を読む。いわゆる「0クリック検索」の増加はその象徴です。情報収集型の検索ではAIによる概要(
AI Overviews)の表示も広がり、検索は“リンクの一覧”から“回答の提示”へと構造を変えつつあります。

 

変化は、認知の入口にも及んでいます。AI検索を通じてブランドを知るユーザーは増加傾向にあり、しかも比較検討に近い段階で情報に触れるため、質の高い認知につながりやすいといいます。AIは検索の補助ではなく、新たなブランド接点になりつつあるのです。

 

では、その回答は何を根拠に生成されているのか。
AIサービスごとに、参照する情報源は異なります。GoogleのAIは検索結果をもとに回答を生成し、引用元リンクを表示する設計で、引用情報と検索順位には一定の相関が見られるといいます。一方でChatGPTなどは、SEOのルールに紐づくわけでなく、更新日の新しさなど“鮮度”が重視される傾向があるという指摘がありました。

 

こうした状況を踏まえ、AI検索における自社・競合の“見え方”を可視化する手段として紹介されたのが、Ahrefsの「ブランドレーダー」です。AI検索で自社や競合ブランドがどの程度言及・推奨されているかを把握できるほか、どのような情報源(ドメイン)をもとに語られているかも確認できます。

 

実際、AIが自社を推奨する際には、公式サイトだけでなく第三者ドメインを参照するケースが多いといいます。YouTubeなどのUGCや比較コンテンツが引用されやすく、ブランドは「自社発信」だけでなく「他者からどう語られているか」によって形づくられます。だからこそ、自社製品のUSP(独自の価値提案)がAIの回答にどう反映されているかを把握することが重要になります。
あわせて、USPが第三者コンテンツや自社発信の中で一貫して伝わるよう、情報発信を整えていく必要があります。伝えたい強みが、AIにそのまま理解されるとは限らないからです。

 

AIの引用傾向を把握し、発信設計に反映することも重要です。LLMに引用されやすいコンテンツには一定の傾向があり、構造化や具体性が重要だと指摘されました。

 

こうした前提のもとで示されたのが「SEOは終わらない」という見立てです。ただし重要なのは、順位そのものよりも、AIにどう理解され、どう引用されるかまでを含めて設計すること。検索対策は、流入獲得のための施策から、“AI時代のブランド設計”へと拡張しつつあります。

実証実験から見るGEOの実践知(デジタルガレージ)

続いて、デジタルガレージからGIIセグメント本部 事業共創部の植田百香が登壇し、デジタルガレージグループの決済プロバイダーである株式会社DGフィナンシャルテクノロジーにおけるGEO(Generative Engine Optimization)の実証実験結果が紹介されました。

 

GEOとは、生成AIによる回答を前提に、自社や自社プロダクトがどのように言及されているかを可視化し、最適化していく取り組みです。本PoCでは、デジタルガレージの投資先でもあるRelixerが提供する、SEO/GEOに最適化されたコンテンツを自律生成するプロダクト「Relixer(レリクサ)」を活用。検証は大きく3つのフェーズで進められました。

実証実験から見るGEOの実践知(デジタルガレージ)

第1フェーズは「可視化」。
キーワードやプロンプトなど、GEOの対象範囲を仮設定から精査・確定まで整理する中で、別名や表記ゆれの未登録が言及率を大きく左右するなど、初期設定が結果を左右する“落とし穴”が明らかになりました。抽象的なプロンプトは計測コストだけがかさむため、ターゲットから逆算した注力領域に絞り込む設計の重要性も共有されました。

 

第2フェーズ「分析」では、プロンプトを変えながら回答内容を検証することで、AI視点での評価軸や競合との差分を可視化。AIの回答は市場の“鏡”として、自社のポジショニングを客観的に映し出し、商品開発や営業戦略のヒントにもなり得るという示唆が得られました。

 

第3フェーズの「最適化」では、ブログ記事の最適化に取り組み、AIがどのような情報を評価しやすいかを検証。
その中で、具体的な数値や事例を提示している競合は、AI上で言及されやすい傾向が見られたといいます。AIは、数値・事例・客観レビューといった“根拠のある情報”を重視する一方、曖昧な表現は誤解やハルシネーションを招きやすい。だからこそ、情報の精度を高め、必要な情報を拡充していくことが重要になる——。最適化フェーズでは、こうした示唆が共有されました。

 

印象的だったのは、「プロンプト設計そのものがブランド戦略になる」という示唆です。AIに何を問い、どのような文脈で語らせるか。それは単なるテクニカル設定ではなく、自社の強みや提供価値を再定義する作業でもあります。

検索対策は、流入獲得施策から“信頼設計”へと拡張している──そんな変化が、実証実験を通じて共有されました。

マーケティング×AI

「マーケティング×AI」をテーマにしたセッションでは、株式会社ウテナ マーケティング部 部長 中島恵司氏、株式会社CrestLab 代表取締役CEO 坂東裕太氏、そしてデジタルガレージ コマースマーケティング本部の岩尾達郎、片桐隆信が登壇。
AIクリエイティブの活用事例が紹介されました。

「違和感」を武器にしたAIクリエイティブ(ウテナ×デジタルガレージ)

ウテナが紹介したのは、主力ブランド「ウテナ モイスチャー」をめぐる取り組みです。

 

1983年に発売された、⾃然派のロングセラースキンケアブランド「ウテナ モイスチャー」は、ユーザー層の高齢化が進み、次世代へどうアプローチするかが課題となっていました。従来の「母から娘へ」という訴求は想定ほど反応が得られず、そこから浮かび上がったキーワードが「違和感」だったと言います。

「違和感」から生まれたAIクリエイティブ(ウテナ×デジタルガレージ)

この「違和感」を起点に、2024年からは「絶滅危惧化粧品」「アロエメイツ」「波に乗らないのが今っぽい」など違和感のあるプロモーションを展開。そのプロモーションを更にドライブし「ゲレンデみたいにスーベスベ」「80年代明星表紙オマージュクリエイティブ」(写真参照)といった昭和レトロなトーンのAIクリエイティブを展開。あえて目に留まる引っかかりをつくることで、ブランド認知の入口を広げる狙いが語られました。OOH広告などの施策へ発展し、日経MJやWWDで取り上げられるなど波及効果も生まれたといいます。

ウテナモイスチャー 広告クリエイティブ

一方で、AIクリエイティブは注目を集めやすい分、ネガティブな反応にもつながり得ます。肖像権・著作権といった権利面への配慮、掲出場所の選定など、運用面の設計も含めて進めたことが語られました。

AIで実現する、アニメの高速制作検証ウテナ×CrestLab

ウテナ モイスチャーの新たなプロモーションとして、2026年4月から展開予定の“変身ヒロインアニメ”風の広告動画の制作プロジェクトが紹介されました。今回のプロジェクトでは、制作プロセスそのものがAI活用の実践例として語られました。

 

従来のアニメ制作は、スタジオ確保や作画工程の都合から長期化しやすい傾向にあるといいます。今回の制作では、企画・構成といった“核”は人が担い、絵コンテ制作やデモ生成をCrestLabのアニメーションDXサービスで高速化。1分のアウトプットに半年〜1年かかることもある制作プロセスに対し、数時間〜半日程度で試作・検証できる体制をつくることで、企画の精度を高めていると説明されました。

 

制作の各工程でも、人とAIの役割分担が工夫されています。キャラクター制作は人の手でブラッシュアップしながら進め、絵コンテはAIを使って短期間(約1週間)で作成。さらにAIだけに寄せず、アニメのトップクリエイターが演出に入ることで、表現の質を担保する体制が取られているといいます。

 

また、本セッションで特に強調されていたのが、安易に“アニメのフレーム”に当てはめるのではなく、世界観やブランドの立ち位置をまず言語化し、それをキャラクターや演出に反映していくことでした。抽象的すぎれば意図がぶれ、言い方次第では“角が立つ”こともある。アウトプットのスピードが上がるからこそ、企画段階の言語化が制作の質を左右する——。本事例は、その点を示す好事例でした。

AI活用対談

最後のセッションでは、株式会社AuthenticAI 代表取締役社長 上田徹氏と、デジタルガレージ 片桐隆信による対談が行われました。
テーマとなったのは、複数の生成AIを統合し、職種ごとのAIエージェントを配置できる企業向けAIエージェントプラットフォーム「Maison AI」です。対談では、AIエージェントの進化を起点に、企業の業務や組織のあり方が今後どう変わっていくのかが語られました。

企業時代のAI基幹システム「Maison AI」

Maison AIは、複数の生成AIを統合的に利用できる仕組みを備えています。個別のAIツールを点在させるのではなく、企業としての運用・管理を前提に、セキュリティや権限管理の考え方も含めて設計されている点が紹介されました。

 

また、特徴として挙げられたのが「職種・役割」起点のエージェント設計です。個人が生成AIを使う場合は“自分専用の相棒”のような関係になりがちですが、企業では複数人が同じ目的でAIを使います。そのためMaison AIでは、業務ごとにエージェントを定義し、チームで共有して使う前提が語られました。

 

対談の中で印象的だったのが、「単体のAI」ではなく「AIチーム」で仕事を進めるという考え方です。ブランドディレクター役のエージェントが司令塔となり、ブランドマネージャー、デザイナー、スタイリストといった役割を持つサブエージェントにタスクを振り分ける。こうしたオーケストレーションによって、複数の視点を並行して走らせながらアウトプットを組み立てるアプローチが紹介されました。

ここで強調されていたのは、「役割の定義」です。誰が何を判断し、どこまでを担うのか。人間の組織と同じように、AI側にも役割分担を与えることで、アウトプットの質や再現性を高めていくという整理が共有されました。

 

もう一つの論点が、会話や意思決定の履歴の扱いです。企業利用では、個人単位ではなく、エージェント単位で複数人が利用するケースが増えます。その前提に立つと、重要になるのは「誰が使ったか」よりも、「そのエージェントが何を参照し、どう判断したか」という履歴です。

 

対談では、短期・長期の履歴参照を段階的に拡張していく構想にも触れられ、エージェントの会話・思考の蓄積が、企業にとって新しい“知的資産”になり得るという見方が示されました。

議論はさらに、エージェント同士がやり取りする世界観へと広がりました。ユーザーが使うAI(たとえば対話型AI)が情報収集や比較検討を担い、企業側もそれに対する“カウンターのエージェント”を用意する。そうした「エージェントtoエージェント」の構造が普及すれば、企業の業務設計だけでなく、コマースの接点そのものが変わり得る――。対談は、そうした未来像にも言及しながら締めくくられました。

まとめ

検索体験の変化、AIクリエイティブの進化、そして企業基盤としてのAIエージェント──。
本セミナーでは、AI活用が「部分最適の効率化」から「構造設計のテーマ」へと移りつつある現在地が、多角的に共有されました。参加者アンケートでは、「AIを“どう業務に組み込んで活用していくか”を考えるきっかけになった」といった声も寄せられ、高い評価をいただきました。

 

DGビジネステクノロジーでは、マーケティングAIパッケージ「DG AI Drive」や「Maison AI」の提供をはじめ、戦略設計から実装・運用まで、企業のAI活用を総合的に支援しています。「自社の場合、どこから始めるべきか」「今の取り組みは妥当なのか」といった壁打ちや情報交換のご相談も歓迎しています。ぜひお気軽にお問い合わせください。


DGビジネステクノロジーは、事業者様のAI活用を総合的に支援しています。
お気軽にご相談・お問い合わせください