【第1回】なぜCXは「顧客満足活動」で終わるのかー顧客体験を経営アジェンダに変えるための第一歩

顧客体験を経営アジェンダに変える ー CXを事業成果につなげるための考え方

 

CX、つまり顧客体験の重要性を否定する人は、もうほとんどいないと思います。
顧客満足度を測る。NPSを追う。カスタマージャーニーを描く。Webサイトやアプリを改善する。問い合わせ対応を見直す。CRM施策を強化する。
多くの企業で、顧客体験をより良くするための取り組みは、すでに日常的に行われています。
むしろ、顧客起点で考えることは、いまや特別なことではありません。

それでも、CXが事業成果につながっているかと聞かれると、急に説明が難しくなることがあります。

「顧客満足度は上がっている」

「UIは改善している」

「問い合わせ件数は減っている」

「施策は増えている」

一つひとつは大切な成果です。
しかし、それが売上、継続率、LTV、ブランド選好にどうつながっているのか。経営や事業の言葉で説明しようとすると、途端に話が曖昧になる。
CXが経営アジェンダになりにくい理由は、ここにあります。

顧客体験が重要ではないからではありません。顧客体験が、経営や事業の言葉に翻訳されていないからです。

 

CXの重要性は、すでに多くの企業で認識されている

 

近年、企業活動の中で「顧客体験」という言葉を耳にする機会は大きく増えました。

マーケティング部門では、顧客理解やコミュニケーション設計の文脈で語られます。
EC
やデジタル部門では、UI/UX改善やCVR向上の文脈で語られます。
カスタマーサポート部門では、問い合わせ対応や顧客満足度の向上として扱われます。
ブランド部門では、企業やサービスに対する印象づくりの一部として語られることもあります。

このように、CXはすでに多くの部門で重要なテーマになっています。
一方で、取り組みが広がれば広がるほど、かえって全体像が見えにくくなることがあります。

Webサイトの改善、アプリの改善、店舗体験の改善、営業提案の改善、問い合わせ対応の改善、購入後フォローの改善。

それぞれの接点では、確かに良くなっている。
でも、それらが全体としてどの事業課題を解決しているのかが見えにくい。

問題は、CX施策がないことではありません。
むしろ、多くの企業で施策はすでに存在しています。

問題は、それらの施策がどのような顧客体験をつくり、どの顧客行動を変え、どの事業成果につながっているのかが整理されていないことです。

CXは、取り組めば自然に成果につながるものではありません。
顧客体験を、事業成果につながる構造として設計する必要があります。

 

CXを「良い取り組み」で終わらせないために

 

接点改善や満足度向上が不要だと言いたいわけではありません。 むしろ、それらはCXの土台です。

Webサイトが使いにくいよりは、使いやすい方がいい。
問い合わせ対応が遅いよりは、早い方がいい。
購入後に不安が残るよりは、安心できる方がいい。
商品やサービスの説明が分かりにくいよりは、分かりやすい方がいい。

こうした改善は、顧客にとっても企業にとっても価値があります。
ただ、それだけで経営が投資判断できるテーマになるかというと、話は少し変わります。

経営が知りたいのは、顧客が満足したかどうかだけではありません。

その結果、どの顧客行動が変わったのか。
購入率が上がったのか。
継続率が上がったのか。
LTV
が伸びたのか。
商談化率が改善したのか。
ブランドに対する信頼や選好が高まったのか。

経営が見たいのは、こうした変化です。

ここまで説明できて初めて、CXは事業のテーマになります。
逆に言えば、CXが「顧客にとって良いこと」に留まっているうちは、経営会議の中では優先順位が上がりにくい。
なぜなら、投資判断の対象として扱うには、事業成果とのつながりが見えている必要があるからです。

CXは、良い取り組みで終わらせてはいけません。
事業を動かすテーマにする必要があります。
では、なぜCXは事業を動かすテーマになりきらず、接点改善や顧客満足活動に留まりやすいのでしょうか。

 

CXが「顧客満足活動」で終わる3つの理由

 

大きくは、3つの理由があると考えています。

1. 接点単位の改善に閉じている

1つ目は、CXが接点単位の改善に閉じてしまうことです。

WebサイトはWebサイトの担当部門が改善する。
アプリはアプリの担当部門が改善する。
店舗は店舗部門が改善する。
営業は営業部門が改善する。
カスタマーサポートはサポート部門が改善する。

それぞれの改善は、もちろん大切です。
しかし、顧客は企業の組織図に沿って体験しているわけではありません。

広告を見る。検索する。比較する。問い合わせる。購入する。利用する。サポートを受ける。再購入する。誰かに薦める。

顧客にとっては一つの流れでも、企業側では複数の部門に分かれていることが多くあります。
その結果、各部門がそれぞれの接点を改善しているにもかかわらず、顧客から見ると一貫性がない。

ある接点では分かりやすいのに、別の接点では不安が残る。
購入前は丁寧なのに、購入後のフォローが弱い。
広告で期待したことと、実際の利用体験がずれている。

こうした状態では、個別施策としては改善されていても、顧客体験全体としては強くなりにくい。
CX
を経営アジェンダにするには、接点ごとの改善だけでなく、顧客の一連の体験として捉える必要があります。

 

2. 指標が満足度や接点KPIに偏っている

 

2つ目は、指標が満足度や接点KPIに偏ってしまうことです。

NPS、顧客満足度、CVR、クリック率、問い合わせ件数、アプリ利用率、メール開封率。

CXに関わる指標は数多くあります。
これらの指標自体を否定するつもりはありませんただし、指標があることと、成果の構造が見えていることは別です。

満足度が上がったとして、それはどの顧客行動につながっているのでしょうか。
CVRが上がったとして、それはどの体験が改善された結果なのでしょうか。
問い合わせ件数が減ったとして、それは顧客が迷わなくなったからなのか、それとも問い合わせしづらくなったからなのか。

指標だけを見ると、改善しているように見えることがあります。
しかし、その指標がどの体験価値を表し、どの顧客行動を変え、どの事業成果につながるのかが見えていなければ、CXの成果は説明しづらくなります。

指標を増やすほど、成果が見えるようになるとは限りません。
むしろ、何を優先すべきかが見えにくくなることもあります。

CXのKPIは、単なる指標の一覧ではなく、顧客体験から事業成果までの因果を見えるようにするための設計であるべきです。

 

3. 顧客に提供したい価値が言語化されていない

 

3つ目は、顧客に提供したい価値が言語化されていないことです。
「顧客体験を良くする」という言葉は、とても便利です。
しかし、便利な言葉ほど、何を意味しているのかが曖昧になりやすいものです。

顧客に安心して選んでもらいたいのか。
自分に合うものが分かる状態をつくりたいのか。
迷わず手続きできるようにしたいのか。
使い始めてすぐ価値を実感してもらいたいのか。
使い続ける理由を感じてもらいたいのか。
誰かに薦めたくなる体験をつくりたいのか。

これらはすべて、顧客体験です。
しかし、意味していることはそれぞれ異なります。

どの体験を重視するかによって、設計すべき接点も、見るべき指標も、期待する事業成果も変わります。
にもかかわらず、「顧客体験を良くする」という大きな言葉のまま進めてしまうと、CXは施策の集合になってしまいます。
必要なのは、顧客にどのような価値を感じてもらうのかを明確にすることです。

わたしは、こうした価値を「体験価値」と呼んでいます。

 

CXを経営アジェンダに変えるには、「体験価値」で捉え直す

 

CXを経営アジェンダに変えるには、顧客体験を「良いか悪いか」だけで見るのではなく、「どのような体験価値を提供するのか」という視点で捉え直す必要があります。

ここで少し、言葉を整理しておきます。
顧客体験を考えるとき、わたしが特に重視しているのは「その体験によって、顧客が前に進めるかどうか」です。

商品を選ぶ。問い合わせる。購入する。使い続ける。誰かに薦める。

こうした行動の手前には、顧客の認識や感情の変化があります。

不安が減る。納得できる。信頼できる。自分に合っていると感じる。

そうした変化があって、顧客は次の行動に進みやすくなります。
このように、顧客が特定の接点や一連の体験を通じて感じる、意思決定や行動を前に進める価値。
それが、ここでいう「体験価値」です。

たとえば、「安心して選べる」という体験価値があります。
商品やサービスを検討している顧客は、多くの場合、何らかの不安を持っています。

価格は妥当なのか。自分に合っているのか。失敗しないか。導入後に使いこなせるのか。サポートは受けられるのか。

その不安を解消できれば、顧客は問い合わせや購入に進みやすくなります。
この場合、「安心して選べる」という体験価値は、CVRや商談化率、購入率といった事業成果につながる可能性があります。

また、「自分に合うものが分かる」という体験価値もあります。
選択肢が多いことは、必ずしも顧客にとって良いことばかりではありません。
比較すべき情報が多すぎると、かえって選べなくなることがあります。
そのとき、診断、比較表、事例、レビュー、レコメンド、相談導線などを通じて、自分に合うものが分かる体験を提供できれば、顧客は選びやすくなります。
この体験価値は、購入率や客単価、継続率に影響するかもしれません。

ここまでくると、CXは単なる接点改善ではなくなります。
顧客にどのような体験価値を提供し、その結果どのような認識や行動を生み、どの事業成果につなげるのか。
ここまで整理して初めて、CXは経営や事業の言葉に翻訳されます。

体験価値は、CXと事業成果をつなぐ翻訳軸です。

 

体験価値を定義すると、CXの見え方が変わる

 

体験価値を定義すると、CXの見え方が変わります。

顧客が何を感じるのか。
その結果、どの行動が変わるのか。
その行動が、どの事業成果につながるのか。
さらに、その体験が繰り返されることで、顧客の中にどのようなブランド認識が蓄積されるのか。

この流れが見えると、CXは経営会議で語りやすくなります。
たとえば、「安心して選べる」という体験価値が繰り返し提供されれば、顧客の中には「この企業は信頼できる」という認識が蓄積されます
自分に合うものが分かる」という体験価値が繰り返し提供されれば、「この企業は自分のことを理解してくれる」という印象につながるかもしれません。
つまり、体験価値は短期的な行動変化だけでなく、中長期的なブランド形成にも関わります。

CXは、売上やCVRの改善だけを目的にするものではありません。
顧客の認識や記憶を通じて、企業やブランドが選ばれ続ける理由をつくるものでもあります。
だからこそ、CXは一部門だけで完結しません。

経営、事業、マーケティング、営業、EC、店舗、カスタマーサポート、ブランド、システム。

複数の部門が関わる、事業全体のテーマです。
顧客体験は、経営の言葉に翻訳されて初めて動き出します。

 

まずは、自社のCX活動を点検してみる

 

CXを経営アジェンダに変える第一歩は、自社のCX活動がどの事業課題に接続しているのかを整理することです。
顧客満足度やNPS、UI改善、CRM施策などが個別に存在していても、それらが売上、継続率、LTV、ブランド選好といった成果にどうつながるのかが見えていなければ、CXは経営判断の対象になりにくくなります。
まずは、次の問いから確認してみるとよいかもしれません。

自社のCX活動は、どの事業課題を解決するものか説明できるでしょうか。
顧客満足度やNPS以外に、事業成果との接続を説明できるでしょうか。
部門ごとの施策は、同じ顧客体験の方向を向いているでしょうか。
顧客に提供すべき体験価値を、言語化できているでしょうか。
CX
は、経営会議で投資判断できるテーマになっているでしょうか。

CXは、顧客満足活動や接点改善、UI/UX改善だけで完結するものではありません。
もちろん、それらもCXの一部です。 ただし、それだけでは、経営アジェンダにはなりにくい。

CXは、きれいなスローガンだけでは動きません。
顧客にどのような体験価値を提供し、その価値がどの顧客行動を変え、どの事業成果につながるのかを設計すること。
それが、CXを経営アジェンダに変えるための第一歩です。

次回は、この「体験価値」をどのように設計するのかを考えます。
すべての顧客接点を均等に改善するのではなく、重点顧客に対してどの体験価値を届けるべきか。
CX戦略を事業戦略として組み立てるための考え方を整理します。

 


DGビジネステクノロジーは、顧客体験を事業成果につなげるためのCX戦略設計、体験価値の整理、KPI設計、
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自社のCX活動を経営・事業のテーマとして整理したい方は、お気軽にご相談・お問い合わせください

 

■執筆者

 

深野 信秀

株式会社デジタルガレージ 戦略アカウントセールス本部 ストラテジックプランニング部

 

事業会社にてEC・CRM・マーケティング領域に従事し、化粧品メーカーでは顧客接点の設計や販促施策の企画・運用を経験。その後、デジタルマーケティング支援会社にて、メーカー・金融・小売などの事業開発、マーケティング戦略、EC改善支援を担当。現在はデジタルガレージにて、新規事業開発や既存事業の見直し、顧客理解を起点としたCX戦略・KPI設計・実行支援に携わる。日本マーケティング協会認定 マーケティングマスター。