【CXコラム第4回】CXとブランド戦略を、いかに統合するか

同じ売上でも、次の売上につながる力は違う

例えば、同じ商品を、同じ金額で購入した2人の顧客(Aさん、Bさん)がいるとします。この購入による売上への貢献は同じです。
Aさんは、商品に満足しています。ただ、次に購入するときには、改めて各社の商品や条件を比較するでしょう。
Bさんも、商品に満足しています。購入後もそのブランドが気になり、自らこのブランドの新商品を調べています。次の購入機会にも、きっとこのブランドを思い浮かべる。使ってよかった経験を、身近な人に話すこともあるかもしれません。

2人の購入時点の売上だけを見れば、この違いは表れません。
しかし、その後の関心や行動まで見ると、継続購入や紹介など、将来の事業成果につながる機会が見えてきます。


第3回では、体験価値、顧客行動、事業成果を、一つのKPIツリーでつなぐ考え方を整理しました。今回は、その行動を一度の購入で区切らず、購入後も続く関心や、自発的な関与、他者への推奨まで広げて考えます。

商品の品質を伝える。
ブランドの世界観を発信する。
購入後もコミュニケーションを続ける。

多くの企業が、それぞれに取り組んでいます。施策ごとの成果も確認しているでしょう。

では、品質を評価した顧客は、そのブランドの世界観にも魅力を感じているでしょうか。
世界観に惹かれた顧客は、実際の商品や購入体験を通じて、その魅力を確かめられているでしょうか。
購入後のコミュニケーションは、その価値を深めるものになっているでしょうか。

ここまで聞くと、少し答えにくくなるかもしれません。

ブランド形成に必要な活動がそろっていることと、それらが顧客の中で結びついていることは、同じではありません。

今回は、この「つながり」を、CXとブランド戦略の両面から考えます。

 

1.ブランドとの関係は、事業に何をもたらすのか

ブランド形成の話は、認知や好意、愛着といった言葉で終わりがちです。もちろん大切ですが、事業を担う立場からすると、それによって何が変わるのかを知りたいところです。

顧客が次の機会にも自社を選ぶ。
関連する商品にも関心を持つ。
自ら情報を探し、企画に参加する。
そして、自分の経験を誰かに伝える。

こうした行動には、事業上の意味があります。

継続購入や購入範囲の広がりは、LTVを高める要因になります。自ら情報を探してもらえれば、新しい提案を届ける機会も増えます。経験が周囲に伝われば、企業の広告や営業とは別の経路から、新たな顧客との接点が生まれる可能性があります。

このように、品質や、そのブランドを選ぶ意味に納得してもらえていれば、価格以外の理由で選ばれる余地が育つのです。

ブランド形成を捉えるモデルの一つに、ブランド・エクイティ・ピラミッドがあります。その頂点に置かれているのが、ブランドとの強い結びつきを表す「レゾナンス(共鳴)」です。繰り返し購入することに加え、愛着や一体感を持ち、購入以外でも積極的に関わる関係を含みます。

ただし、すべての顧客と、このような関係を築くことが成長の条件ではありません。強い愛着がなくても、使いやすさや買いやすさ、習慣によって選ばれ続けることはあります。まだ購入していない人や、時々しか購入しない人との接点を広げることも重要です。

ここで考えたいのは、関係を深めることによって、どのような行動と成果が生まれるかです。

関与が増えても、購入や利益につながるとは限りません。継続購入が増えたとしても、値引きや関係維持の費用まで含めて見る必要があります。推奨についても、発信されたことと、ほかの顧客の購入につながったことは分けて確かめます。

「ブランドへの愛着が高まった」で、話を終えない。

事業成果までのつながりを見る姿勢は、第3回と同じです。

 

2.品質への理解と、自分にとっての意味をつなぐ

では、その関係は、何によって支えられるのでしょうか。

ブランド・エクイティ・ピラミッドは、認知を土台に、ブランドの機能やイメージ、そこから生じる評価や感情、顧客との関係を整理したものです。CX04_1

これは、関係形成を支える基礎を順に確認するモデルです。個々の顧客が、図の通りに購入まで進む様子を表したものではありません。

まず見ていただきたいのは、ブランドの機能や特徴についての理解と、そのブランドが持つ意味やイメージです。

例えば、ジュエリーなら、素材や仕上げ、着け心地についての理解があります。同時に、どのような人が身につけ、どのような場面に似合い、どんな世界観を持つかという連想もあります。

そして、それらをもとに、「品質が高い」「価格に見合う」「信頼できる」と判断したり、憧れや高揚感を覚えたりします。知覚品質* も、素材の良さだけで決まるものではありません。顧客が受け取った情報や経験を通じて形成される評価です。

ここで、自分との関係にも目を向けます。

今の自分に合っていること。そして、なりたい自分に近づけることです。

普段の装いになじみ、自分の感性に合っている。あるいは、身につけると、いつもより少し洗練された自分になれそうだと感じる。

どちらか一方とは限りません。「自分らしさは大切にしたい。でも、少し背伸びもしたい」。そうした気持ちは、同じ人の中にあります。

ブランドの価値を考えるとき、「自分に合うものを選べる」だけでは捉えきれない部分があります。憧れる姿を思い描くことも、そのブランドを選ぶ意味になります。

その憧れを、品質や実際の経験が支えているか。品質への理解が、自分にとっての意味と結びついているか。

今回、特に見たいのは、この関係です。

* 知覚品質:商品やサービスの品質について、顧客が情報や経験をもとに形成する評価。企業が「品質は高い」と考えていても、そのまま顧客に伝わるとは限りません。

 

3.CXは、ブランドの価値を顧客の実感につなぐ

この図の中で、CXはどこに位置づくのでしょうか。

わたしは、CXをピラミッドの一か所に置くと、かえって分かりにくくなると考えています。

ピラミッドが示すのは、顧客の中に形成される認識や感情、ブランドとの関係です。CXは、その形成や更新に関わる顧客の経験です。そして、その経験を通じて顧客が感じる価値を、これまでの連載では「体験価値」と呼んできました。

例えば、ジュエリーを試着する場面を考えてみてください。

顧客は、質感や着け心地を確かめています。同時に、鏡に映る自分を見て、「普段の服にも合いそうだ」「こういう装いもできるのか」と感じています。

一つの体験の中で、商品の理解と、自分の姿を思い描くことが重なっています。そこで、品質への納得や、身につける喜びが生まれることもあるでしょう。

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(図2の注釈)Keller(2001)のモデルをもとに、CXとの関係を本稿の実務的な視点から整理。対応は例示であり固定ではない。

購入後も同じです。身につけて過ごす中で、自分らしさや自信を感じる。その経験から、ブランドが自分にとって持つ意味を確かめていきます。

反対に、期待との違いを感じ、評価を見直すこともあります。体験を重ねれば、自動的に関係が深まるわけではありません。

また、顧客の経験は、企業が用意した接点だけで決まりません。身近な人の言葉や、実際に使う場面も影響します。すべてを企業の意図通りにすることはできません。

それでも、設計できることはあります。

どのような情報を届けるか。何を確かめられる機会をつくるか。どのような期待を持ってもらい、それをどう支えるか。

ブランドとして届けたい価値を、顧客が自分の経験として感じられるようにする。

そこに、CXを設計する役割があります。

安心や便利さに加え、憧れや高揚感も、その対象です。

 

4.4P(Product・Price・Place・Promotion)は、ブランド形成の全体像から設計する

顧客が受け取る体験は、企業のさまざまな判断から生まれます。

どのような商品を用意するか。
いくらで提供するか。
どこで、どう購入できるようにするか。
何を、どう伝えるか。

商品・価格・流通・プロモーションという4Pです。

ブランド形成を意図するなら、それぞれが顧客のどのような理解や感情を支えるかまで考えます。

例えば、「自分らしさを大切にしながら、憧れる装いに近づける」という価値を届けたいとします。

商品には、その期待を支える品質とデザインが必要です。価格は、届ける価値との関係で考えます。販売する場所や見せ方は、商品を確かめ、自分が身につける姿を想像する機会になります。同時に、必要なときに見つけられ、購入できることも欠かせません。

プロモーションでは、憧れを生みながら、自分とのつながりも感じてもらう。購入後のCRMでは、手入れの案内や装いの提案などを通じて、その価値を実感し続けられるようにする。

ここで、「品質は伝えているから、イメージは考えなくてよい」とはなりません。反対も同じです。

ブランド形成に必要な領域を見渡し、それぞれをどう満たすかを考えます。

すべての施策を実施するという意味ではありません。一つの施策にすべてを担わせる必要も、各領域に同じだけ投資する必要もありません。

全体として何が必要かを確認したうえで、自社が目指すブランドと事業課題に応じて、実現方法や投資の強弱を決めるということです。

第2回で扱った「重点体験」も、この全体像の中に置きます。

品質への理解と憧れが結びつく場面はどこか。
期待した価値を確かめる場面はどこか。

必要な領域を見渡したうえで、特に重要な役割を担う体験を見極めます。

 

5.各部門の活動は、同じブランドを育てているか

ここまで整理すると、部門間で共有すべきことも見えてきます。

例えば、マーケティング部門は商品の良さを伝え、購入につなげようとしている。ブランド部門は世界観を発信している。CRM部門は再購入や継続利用を促している。

それぞれが役割を果たしていても、活動同士のつながりが弱いことがあります。

特別感を伝えている一方で、購入後に届くのは値引きの案内ばかり。品質を大切にしているはずなのに、顧客がその良さを確かめる情報や機会が少ない。

値引きや個々の施策が悪いという話ではありません。それらを組み合わせた結果、顧客に何が伝わっているかが問題です。

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必要なのは、共通のブランド思想です。

どのような品質を感じてもらいたいのか。今の自分や、なりたい自分と、どう結びつけてもらいたいのか。その価値を、どのような経験で確かめてもらうのか。

ここを共有することで、各部門は、自分たちの活動が全体のどこを担うかを判断できます。

顧客全員に、同じ印象を持たせることはできませんし、その必要もありません。受け取り方に幅があっても、核となる価値が矛盾せず伝わっているかを見ることが大切です。

そして、関係の深まりが、どのような行動に表れているかを確かめます。継続購入による本人のLTVと、推奨による新たな顧客の獲得は、経路を分けて捉えます。

第3回のKPIツリーに置いた「体験価値」が、ブランドへの理解や期待とも、どう関わっているか。

そこまで見ることで、ブランド戦略とCXの議論がつながります。

 

6.そのブランドは、どんな場面と結びついているか

ブランドのイメージには、「上質」「洗練されている」といった印象だけでなく、誰が、いつ、どこで、どのようなときに購入し、使うものかという連想もあります。

例えば、「仕事や生活の節目に、自分へのご褒美として選ぶジュエリー」という結びつきです。

このような購入・使用場面の連想は、ピラミッドではImageryに含まれます。そして、「節目のご褒美を選びたい」と思ったときに、そのブランドが候補として浮かぶかという問いにもつながります。

ここで参考になるのが、CEP(カテゴリー・エントリー・ポイント)です。

購入を考える状況で、ブランドを記憶から呼び出す手がかりとなる動機や場面などを指します。「そのブランドから、どんな場面を連想するか」に加え、「その場面で、どのブランドを思い出すか」を見る。両方向から確かめると、顧客の生活との結びつきが見えやすくなります。

なお、その場面でブランドに対して感じる高揚感や安心感は、Feelingsに当たる感情反応です。場面についての連想と、そこで生まれる感情を分けると、何を設計するかも整理しやすくなります。

CEPは、強い愛着のある顧客だけの話ではありません。まだ購入していない人や、時々しか購入しない人に、必要な場面で思い出してもらうことも重要です。もちろん、思い浮かぶことだけで、品質への納得や関係形成まで説明できるわけではありません。

その場面で何を期待され、実際にどのような価値を届けられるかまでつなげて考えます。

 

7.自社のブランドとCXを、3つの問いで点検する

自社の商品やサービスを一つ選び、顧客が知り、購入し、使い、その後も関わるまでを思い浮かべてみてください。次の3点を確認します。

① 品質への納得と、自分にとっての意味がつながっているか

どのような品質や機能を評価してもらいたいのか。
そのブランドを通じて、今の自分をどう感じ、どのような自分を思い描いてもらいたいのか。

その両方を、実際の体験で確かめられているでしょうか。品質の説明と世界観の発信が、それぞれ独立したものになっていないかを確認します。

② 各部門の施策は、同じブランドを育てているか

関係する担当者が、「顧客にとって、どのようなブランドでありたいか」を説明したとき、その内容はつながっているでしょうか。

さらに、各施策がどの領域を担っているかを確認します。

商品の理解、意味やイメージ、評価や感情、継続的な関係のうち、置き去りになっている領域はないでしょうか。

③ 購入の先に、どのような行動と成果が生まれているか

顧客は購入後も自ら情報を探しているでしょうか。
次の機会にも選んでいるでしょうか。
経験を周囲に伝えているでしょうか。

その行動が、継続購入や利益、新たな顧客の獲得にどうつながっているかも確認します。

ここでは、もともと関心が高い人ほど、施策に参加している可能性にも注意が必要です。参加した人の購入額が高いだけでは、その施策の効果とは言い切れません。可能であれば実施していない顧客との比較を行い、過去の購入状況や関心度の違いも踏まえて見ます。

まずは、3つの問いに対する自社の答えを書き出し、顧客の声や行動と照らし合わせてみてください。社内ではつながっているつもりでも、顧客には別々のものとして届いているかもしれません。

その違いが、見直しの入口になります。

 

一度の購入と、その先の成果をつなぐ

冒頭の2人は、どちらも購入した商品に満足していました。

その後の関心や行動が違うからといって、どちらが事業にとって価値の高い顧客かは、それだけでは決められません。

ただ、その違いを見なければ、顧客との関係が事業にもたらす可能性も捉えられません。

品質への理解と、自分らしさや憧れとのつながり。
それらを、顧客が実際の経験として感じられるようにする。
その経験が、次の選択や関与、推奨にどう表れるかを確かめる。

4Pと継続的な接点を共通の思想で設計し、体験と成果の両方から見直していく。

CXとブランド戦略の統合は、この設計と検証の中で進みます。

 

【参考資料】
・Kevin Lane Keller(2001), Building Customer-Based Brand Equity: A Blueprint for Creating Strong Brands, Marketing Science Institute.
・Ehrenberg-Bass Institute, Category Entry Points in a Business-to-Business (B2B) world.
* 図1、2はKellerのモデルをもとに、本稿の論点に合わせて再構成。

【関連サービス】
購入者が実感した価値を、次の顧客の商品選びへ。
NaviPlusレビュー

誰かに薦めたい気持ちを、紹介しやすい仕組みへ。
NaviPlusフレンズ

購入後も、ブランドの価値に触れる機会を。
LINE活用・CRM基盤構築支援

次回は、それを組織の中でどう実行するかを考えます。
部門や指標、データ、意思決定の分断を越えて、CX戦略を動かすための実践について整理します。

【これまでの記事はこちら】
■【第1回】なぜCXは「顧客満足活動」で終わるのかー顧客体験を経営アジェンダに変えるための第一歩
■【第2回】CXは、顧客理解のズレを捉えることから始まるー体験価値を設計するための考え方
■【第3回】事業KPIに、いかにCXを組み込むかー顧客体験と事業成果を、ひとつのKPIツリーでつなぐ

 


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■執筆者

 

深野 信秀

株式会社デジタルガレージ 戦略アカウントセールス本部 ストラテジックプランニング部

 

事業会社にてEC・CRM・マーケティング領域に従事し、化粧品メーカーでは顧客接点の設計や販促施策の企画・運用を経験。その後、デジタルマーケティング支援会社にて、メーカー・金融・小売などの事業開発、マーケティング戦略、EC改善支援を担当。現在はデジタルガレージにて、新規事業開発や既存事業の見直し、顧客理解を起点としたCX戦略・KPI設計・実行支援に携わる。日本マーケティング協会認定 マーケティングマスター。